「なあ、お前って幽霊とか信じる?」

おれは皆が寝静まったサニー号のキッチンで、皮剥き真っ最中のじゃがいもから目を少しだって離さずにそう尋ねた。ぴかぴかに磨いたシンクに置かれたボール の中に、薄く剥かれた皮が吸い込まれるように落ちるのをじいっと見ている。それでも、背後で瓶から直接酒を呷っていたであろうゾロが、はんっと小馬鹿にし たように鼻で笑ったのが聞こえ、その顔が目に浮かぶようだった。

「どうした、クソコック。なんか変なもんでも食ったか?」

「てめェ、おれにそれを言うか」

おれはそう怒鳴り返し、芋の皮の最後の一片を剥いてしまうと、それをことことと煮えている鍋に丁寧に落とし、やっとのこと振り返った。

 そこにはやはり、想像通り、頬杖をついてにやっと不敵に笑っている顔がこちらを観察していた。しかし、その憎たらしいくらいの表情とは裏腹に、額にも、 胸にも盛大に包帯が巻かれていて、まあ、怪我をしているのはしょっちゅうなのだが、それでも三途の川の岸辺までは確実に行ってしまったであろうそれを見 て、今回の怪我の原因となった《お化け屋敷》でのことを想い、おれは人差し指と中指でいらいらと唇をつうとなぞった。

 その仕草を見てゾロは呆れたように片眉を吊り上げると、テーブルの上に放置してあった煙草の箱をぞんざいに投げて寄越した。それを受け取って、おれは見透かされたことが悔しいような、こそばゆいような不思議な気持ちになって、敢えて苦々しげに言葉を発した。

「料理中は吸わねェんだよ」

「そんくらい知ってる。休憩すりゃいいだろ」

そうしれっと返すゾロを憎々しく思いながらも結局体はニコチンを求めていて、箱から一本取出し、くわえながらゾロの右隣に腰掛ける。ヤニ中なんて良いことなしだ。

「で、どうなんだよ」

「ああ?」

「幽霊だよ」

「ああ」

いきなりぶり返した話題に納得したように相づちをうつと、ゾロは少し考えるように唇をむうとへの字に曲げた。

「信じてるっていうかな、それっぽいもんはあると思うが」

「はあー。じゃあお前、死んだら化けて出ろ」

言ってからこんなこと唐突に言ってどうするとも思ったが、もう口から出てしまったので仕方がなく、煙を吐きながら伸ばした前髪越しにゾロをちらりと盗み見れば、そんなことはお見通しとばかりの、おもいっきり嫌そうな顔をしたゾロとばっちり目が合ってしまった。

「面倒臭ェ」

「お前って恋人甲斐ねェのな。じゃあおれが化けて出る」

「ふざけんな。死んだらさっさと成仏しろ。チョッパーとウソップに泣き付かれんのはごめんだ」

「ルフィだったら喜ぶぜ」

どうにもいつもの口喧嘩も元気が出ないし手も出ない。いつもだったら確実に刀が出ているか足が出ているのに。そんな風に思いながらおれは、吐いた煙をぼんやりと見ていた。ゾロの方はどうしてか向けなくて、じいっと、それを見るのに集中しているフリをした。

 本当はもっと言いたいことがあったはずなのに、そんなことはどれもこれも形にならずに、煙と一緒に消えていってしまったみたいだ。でも、それも当然なの かもしれないと独りよがりに納得する。何せ、血塗れで「何もなかった」と言い張ったあいつを見たときでさえも、やっぱり何も言えなかったのだ。

 傷だらけになっても《痛いこと》を厭わない奴に、血塗れになってもそれを拭うことすら思いもよらない奴に、雨が降っても傘がなければそのまま濡れて、そのことに何も思えない奴に、夢の為ならなんだってできてしまうような奴に、言えることなんて何もありはしないのだ。

 自分の痛みにあんまりにも興味が持てないクソ野郎に言えることなんてない。言ってもどうにもならないし、どうにかなってしまったらゾロではなくなってしまう気がするからだ。

だからおれはくだらないことを言うしかないのだ。

「じゃあさ、来世って信じるか?」

「知らねェよ。どこの乙女だ」

 乙女っていうのは、このオカルト的運命ごっこになのか、それともおれの気弱な思考になのかよく分からなかったが、そう言ってゾロは珍しいことにとんとおれの肩に頭を乗せ、甘えた仕草をみせた。

 それでも、おれはやっぱりゾロの方は向けなかった。


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