プロローグ
雨に濡れることを厭わない君に
傘をさしてくれる人がありますように
できるのならば、それが僕でありますように
涙雨の降る日に
あれは3月の中旬頃のことだった。
おれは誕生日を迎えたばかりで、照れるゾロが耳の端っこを赤くしながらお祝いしてくれたのを覚えているから間違いない。あの頃の記憶は不思議ととても朧
気で、何に関してもあまり自信が持てないのだが、それだけは確かだ。
その日は春島に船は停まっていて、おれとゾロは買い出しに託けて二人でぶらぶらと出掛けていた。その後はいつも通り2人で飯食って、酒飲んで、宿にでも
しけこもうと思っていた。そう。まったくもっていつも通り。ゾロが誕生祝いにといつもよりもずっとコイビトらしく、穏やかに過ごしていたが、それでもいつ
もと同じ陸での過ごし方だったはずだ。
まさかあの日が最後の日になるなんて思ってもいなかった。
最後のあいつの記憶は曖昧だ。
おれが覚えているのは、ただの血の海と死体の山。それに汚らしく、惨めったらしく貼りつく桜の花弁。春先の冷たい雨。そして間抜けみたいにおれの手に
残った、緑の傘。
おれは、血からも傷からも、ましてや馬鹿みたいに大きなあいつの夢からも、あいつを守ることはできなかったし、守るべきでなんかなかったし、あいつも守
られることを許さなかったことを知っていた。
だからせめて、そう思って買った、大きめの傘。それだけがおれの手に残った。
あれは3月中旬頃、冷たい春の雨が桜の花弁を散らしながら降る日のことだった。
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