最初にサンジがその少女を見たのは、後方甲板だった。初めて見た瞬間からずっと、そうではないかと思っていた。
それは、ある午後のことだった。そのときのサンジの心情にはまったくもって相応しくない、空の青が目に染みるような天気の良い穏やかな午後の
ことだ。故にその時間、その場所は絶好の昼寝場所となっており、当然のようにゾロは手すりに寄りかかって、日向ぼっこをする猫のように満足気に昼寝をして
いた。
少女は、そのすぐ側、手を伸ばせばゾロの頭を撫でることも、ナイフで頸動脈を一息に切り裂くこともできるだろう距離で、ゾロのことをじいっと見ている。
柔らかい風に、少女の短く切った黒髪が柔らかくふわりと舞う。
サンジはゆっくりと、確かめるように二度、三度と瞬きをした。そうすれば少女は視界から消えるのではないかという淡い期待があったのだ。最近、考えごとや
ら何やらで疲れている自覚はあったし、疲れで見える幻覚であってくれと強く願った。そしたら、ロビンちゃんにでもナミさんにでも、面白可笑しく話して終わ
りだ。ウソップやチョッパーをちょっと恐がらせるための話のネタにしたっていい。
しかしそんな願いも虚しく、少女は一向に消える様子はなく、その華奢な小さい背中はいつまで経ってもサンジの視界の中にあった。それどころか、ゾロの隣に
几帳面に立て掛けてある三本の刀内、白い鞘のそれを一度撫でるように優しく触ると、サンジの方へゆっくりと向き直った。ずっと一心不乱にゾロのことを見て
いて振り向きもしなかったのに、サンジがそこに立っていたことを当然知っていたかの様で首筋がうすら寒くなる。まだ十数歳だろう少女が、それほどまでに気
配に鋭いものだろうか。警戒心の強いゾロが刀に触れられてもなお、ぴくりとも反応しないことも、逆に緊張感を煽った。
なんで、ゾロは起きない?
おれのことに気付いていたんだったら、なんでそのときに振り向かない?
それ以前に、どうやったら航海中の船に降って湧いたように少女が現れる?
そして何より、なんでおれは、見たこともないゾロの幼なじみの剣士がこの子なんだと半ば確定的に思っているんだろうか。
顔にはそんなことを一切ださず、頭の中で混乱気味の思考を続けるサンジに、少女は強気そうな目を細めて、口を三日月型にして、笑った。
その普段なら愛らしいと思えるはずの笑顔にすら何か落ち着かないものを感じて、サンジは唇を人差し指と中指でなぞった。
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