煙草

煙草中毒

 大抵は夜、見張り台にいるときのことだ。時間はまだ早く、日付が変わるまであと数時間ほどという時刻で、その時間なら大体コックは海図を描くナミにめろ りんと鼻の下伸ばして紅茶をだしていたり、読書をするロビンにめろりんと目をハートマークにして珈琲をだしていたり、あるいはいつもより三割増し引き締 まった(こう思うのは癪なのだが)実に格好の良い顔で次の日の仕込みをしていたりしていて、決して見張り台までやってくることはない。だから、いつもその 時間だ。

 おれはズボンのポケットから煙草とライターと携帯灰皿を取り出して、餓鬼のママゴトみたいに目の前に一個づつ並べてみる。

 煙草の銘柄はコックと同じ。ただニコチン中毒のコックと違っておれが持っているのはやっぱり子供の遊びみたいな一番軽い一ミリグラム。

 それをコックが吸う様を思い出しながら唇に挟む。それに一番最初に煙草を買ったときについてきた安っぽいライターで火を付ける。風の強い見張り台の上では毎回中々難儀なのだが、やっぱりコックがそうするように、風を遮るように手をかざす。

 渋い煙を口の中に溜めて、息を吸うのと一緒に肺まで煙を入れる。ゆっくり吐きだす。夜の紺色の闇の中に灰色の煙が溶けていくのをじいっと観察する。また 煙を吸い、吐く。それを続ければ大概一分もしないうちに、先ほどまで確かにおれの手の中にあったそれはフィルターを残して灰と化し、おれは滅多に吸わない ヤニのせいで少しだけ目眩がする。生産性の一欠片だってない上、気分も多少悪くなる。いいことなんて一つもない。それでも何故だか止められない。

 酒に酔えないおれは、きっと酒に酔うやつはこういう風に気分が悪くなり、足元が覚束なくなるのだろうとぼんやりした頭でいつも通り思った。


 初めて煙草を吸ったのは十九のとき。コックと俗に言う《お付き合い》を始めてからだ。
 
 それまでおれは、まったく煙草を吸うつもりなんかなかったのだが、あいつがおれに馴染むのと同じように気付けば吸うようになっていた。一度の航海で一箱 も吸い終わらないようなライトスモーカーではあるのだが。まあ、だからクルーの誰もがきっと、おれが煙草を吸うなんて知らないだろう。勿論、コックも。当 然だ。おれだってこんなことになるなんて思ってもみなかったのだから。
 
 おれは知らぬ間にくくくと声をあげて笑っていた。
 
 誰かが、自分の中に入り込むなんて嫌で仕方がなかったのに、今はこの様だ。
 
 コックはいつもおればっかり、とか、お前は全然おれを好きじゃない、とか不本意なことばかりぐだぐだ言う。そんなあいつは、おれが煙草を吸ってるなんて 知ったらどう思うんだろうか。おれが、あいつの仕草を真似て煙草を吸っていると、自分が吸うときと、あいつが吸うときの煙草の匂いが違ったように思えても どかしいと思うと、知ったらどう思うんだろうか。
 
 そんな風に思いながらも、夜中、皆が寝静まった後にやってくるコックを思って、一度歯を磨くためにおれは甲板に降りるのだった。


 甲板に立ったらふと思いついて手すりまで近づいて行って、まっ暗い海を見た。海面に月の光が反射していて、その淡い金の光に誰かを思い出す。おれの中を占領しやがってと不愉快な気分になった。
 
 お前なんて精々一生片思い気分でいろ、ばぁか。そう思って腹いせに灰皿の中身を海にぶちまけた。


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煙草…。どうしてもかきたかったんだけど、未成年…。
…。
彼らの世界では、十七で成人に違いない。うん。そうしよう。なんか十七で海に出るキャラ多いしね

それにしても、書いている方はこういうの楽しいんですが、読んでいて楽しいんだろうかといつも心配です