サイト開設一年記念っぽい三千打記念


 おれの恋人と言うのは、本当に《コイビト》としてはまるで駄目駄目である。何が駄目って、あいつはおれの誕生日は忘れる(奴には誕生日を祝うという習慣 がまるでないようだった)、バレンタインは無視する(自分はあげる側ではなくもらう側という認識だからだ)、ホワイトデーは知らない(存在自体を)、クリ スマスに至っては祝う気がない(まあこれも習慣らしいのだが)という感じに、恋人たちのイベントまる無視状態なのである。

  しかもその上、話をしてみればはちゃんと聞いているんだかどうだか分からないような口数の少なさである。多分バラティエと言っても分からな いだろう。何度も話しているが。クソジジィと言っても分からないだろう。おれの好きな食べ物も。好きな色も。女の子の好みも。こないだ一緒に買い物したと きに見つけて欲しがったネクタイも。何も覚えていやしないだろう。この野郎、おれじゃなくて可愛らしい女の子だったらすっげーショックだぞコラ。おれだっ てちょっとはショックなんだぞコラ。せめて他は良いから誕生日くらいは押さえておけや。いや、おさえておいて。まじで。本当にお願いします。ぶっちゃけ皆 が誕生日の宴会で騒いでるのを見てやっとのこと思い出されるとすごいショックです。

  まあ、でもそんなあいつである。悪気もない。まあ悪気がないんだから直しようもないんだが。仕方がない、と開き直ることがしばらく付き合え ば可能になった。だって本当に仕方ない。ゾロだし。あんなやつに恋人らしいことなんて求めたところで時間とわくわくする心の無駄である。そんな無駄なこと に費やすんだったら、よっぽどそこら辺を心得ている女性陣に期待します。おれは。良いんです。別に。そんなこともできないあいつが好きなんだから。

  でも、それでもぽろっと口がすべるのは仕方がないと思う。そう、これだって本当に仕方のない話だ。だって人間だもの。

  真昼の甲板。お日柄もよく、二人で割と穏やかにくっちゃっべっていたときのことである。

 「お前、おれの誕生日とかぜってぇー覚えてねェよな」

 と、そう口を滑らせてからおれは自分の失言に気がついた。そう、まさに失言である。これじゃあ拗ねてる餓鬼みてェじゃねえか。いや、拗ねてる のは拗ねてるんだが、それをあいつに悟られるのは面白くない。コイビトだと言っても同い年のやけに大人びた男である。恋人だろうと何だろうと、絶対こいつ には負けたくない。いや誓って負けない。いつだってそう思っている。

  だからおれは煙草のフィルターをぎゅっと噛みしめた。が、これも失敗だとすぐに気がついた。

  ゾロが至極面白そうに、珍しく手に持つ酒にも興味の一滴すら向けずにこちらを見て、にまにまと笑っているからだ。あァ、くそ。絶対餓鬼くせェと思われた。間違いねェ。

 「てめェって割と女々しいよな」

 とそんな科白を吐きやがった。ははんと一緒に鼻で笑いながら。これには頭に来た。

 「てめェが大雑把すぎるんだよクソ野郎が」

 女、ときてしまったのでうっかり男前過ぎるんだよと言いそうになったのは内緒である。いや、内心では男前だと思っているが、悔しいので絶対に口にしたくない。こんな場面でなくとも。

  それからはまあいつもの通りの大乱闘である。愛しのナミさんに渾身のげんこくらって二人して甲板に沈んだのは想像に難くないだろう。痛い。 ナミさんマジで痛い。いや、そんな鞭と鞭のナミさんも素敵ですが。だけど、どうして喧嘩時の毬藻の拳より痛いのかはぶっちゃけこの世の七不思議です。

  とそんなことを考えて頭の中がどこかへ行っていたときだった。

 「ほれ」

 いきなり頭に何かを落とされた。

 「ってぇ。何だよクソ野郎」

 その何か、をとって起き上ってみれば、何か、は綺麗にラッピングされた包みのようである。おれは心臓が激しく打つのを感じた。いや、まて落ち 着け。何かの間違いかもしれない。こいつにそんなことを期待したって無駄なはずである。だがゾロの方を見てみれば、常の憮然とした顔を保ってはいるが耳が 赤い。そんな気がするのは気のせいなんだろうか。

  目線で問えば、若干いつもよりも俯けがちの視線で開けていいと返すので、包みを丁寧に開けてみたらネクタイが入っていた。この間欲しいと言ったやつである。

 「……」

 おれは驚いて何も言えなくなった。

 「付き合って、一年」

 「おれとしてはこういうことする気なかったんだが、てめェがいつも何かして欲しそうだったから……」

 「女々しいんじゃねェのかよ」

 「でも、そんなてめェも割と嫌いじゃねェよ」

 そう言った時にはもう既に、慣れないことしたゾロの顔は真っ赤に染めらていた。で、屈辱そうな顔をして一言。

 「こんなことすんの、てめェにが初めてなんだからなっ!!」

 おれは嬉しさのあまり、ゾロの頭にぎゅうっと抱きついたのだった。



 
 恋人としては駄目駄目なんて思って悪かったです。ごめんなさい。おれが間違ってました。真っ赤になってしまった毬藻頭を抱えておれはそう思った。




 ななしのごんべ


 ゾロは薄々ではあるのだが、自分にめっきり恋愛感情というものが湧かない理由が想像できていた。
 
 それは今現在自分の中ではっきりと確信を持てるようなものではないのだが、うっすらと、まるで信じたくない嫌な予感のように曖昧な存在として、でも確かに長いことゾロの中に存在していた。

  最後に、いわゆる《好きな人》というのができたのは高校時代ではあったのだが、それというのはそのずっと前、中学時代から密かに自分の中で育っていたのだと思う。確信というような強いものではないのだけれど。



 
「てめェは、おれの中でトクベツなんだよ」

 「どんな恋人もさ、お前と同じくらいになること滅多にないんだぜ」

  そんな言葉を悔しそうに煙草の煙とともに吐き出す古くからの親友が、多分、トクベツで、きらきらしていて、ゾロにとって大切過ぎたのだ。

  はじめのうちは純粋に嬉しかった。ざまあみろと酒を飲み下しながら、おれもてめェのこと嫌いじゃねえよと鼻で笑ってやった。てめェ耳赤い ぞって反撃されたが、向こうは頬まで真っ赤に染めていたからおあいこだった。そう。そのときは、間違っても、こんな気持ちではなかったのだ。だって恋人と の喧嘩の話とか、逆にのろけ話とか聞いても、こんな焦燥感に駆られることはなかったのだ。多分どこかで余裕があったのだろう。恋人の入れ替わりの激しい親 友だったのだ。そんなやつよりも自分のほうが、親友にとってトクベツなんだと自信があった。

  だけど、そんな日々は終わってしまった。

  親友は長いこと、とある悩みを抱えていた。もしかしたら悩み、というよりも傷と言った方が、抽象的な言葉になってしまうが分かりやすいかも しれない。親友には料理人になるという確固たる夢があったのだが、包丁ひとつだって握れない有様になってしまっていたのだ。

  毎日毎日、台所に立ち、楽しそうにレシピ本を見て、少ない小遣いやバイト代で色んなものを食べ歩いていた親友は、突如として《料理》という存在から距離を置くようになった。週に一度はゾロに試食しろと言って持ってきていた料理たちはすっかりなくなった。

  ゾロは料理している親友が好きだった。何より、台所に近付けなくなってしまった親友があんまりにも辛そうだったから、少しだって力になりた かったのだ。でも、結果から言えばゾロには何もできなかった。五年近くもそんな状態の彼と一緒にいて、ゾロが親友にできたことは、ただ一緒にいることだけ だった。

  それが、とある女の出没により、一瞬で変わった。親友は、ほんの少し会わない間に台所に立てるようになり、包丁が持てるようになり、陰りのない顔で笑うようになり、そして誰かひとりを本当の意味で好きになれるようになっていた。

  あのときゾロは、初めて絶望したのだと思う。自分が親友にとってまったくトクベツなんかではないこと、どうあがいても親友を救えなかったことを思い知った。そして、とある予感が自分の中で育っていたことを知ったのだ。



 

 ゾロはまだその予感に名前を付けられずにいる。名前を付けなければ、それはゾロを蝕むことも、悩ませることもないからだ。

  でも、なんとなくそれが何なのかは予想がついてしまっていた。

  最初は、悔しかった。女が現れる前は、誰かを、例えそれが親友だとしても、救うなんて大それたことを滅多なことではできるはずがないと思っていれたのに、一瞬でそれが打ち砕かれて衝撃を受けた。親友としての独占欲だと思っていた。

  でもそれをきっかけにか、ぎゅうと抱きしめたくなり、髪に触りたくなり、そのうちには唇に触れたくなった。恐ろしいことに、それを実行しても親友は受け入れてしまいそうだと思えた。

  でも、ゾロはまだ、その予感を受け入れたりはしない。きっと一生、受け入れることなどない。その感情に、名前がつく日が来ることはない。

  だからゾロは今日も、親友の前で笑っていることができるのだから。
 





グロ、病み注意です。管理人の描写力がいまいちなので、そんなにきつくはないですが、胸糞は悪いです
駄目だと思った人は引き返した方が良いです





 刃こぼれしてもう捨てようとずっと思っていた果物ナイフを思いっきり振りおろす。ごりっ、めきっと筋繊維がむりやり引き裂かれて、骨が何かにぶつかる音 がした。聞いたことがあまりない種類の音だった。ゾロはよく人を斬ってるし、おれはよく肉をさばいてるが、それは切れ味のいい刃物で、めいかくに切るとい う目的をもっているものだから、そんな不格好な音がすることはなかった。おれの腕もおれのゾロの腕も良いということだ。あたりまえだけど。

  そう。おれのゾロ。そういえばゾロはいま、おれの目の前にいる。普段平静でクールで、生半可なことでは動じないかっこいいゾロなんだけど、今は顔を真っ青にしている。なんの例えでもなく。くちびるが紫色していた。どうしたんだろう。寒いのかな。

 「……て、めェ。うで」

 そう言ったことでゾロは少し、ほんの少しだけ落ち着いたのか、急いで腕に巻いた黒い鉢巻を外しておれの血だらけというか血みどろになった腕を 縛る。手がぶるぶる震えていて、まるでゾロらしくなかった。肉がすこし抉れていたから気分がわるくなったのかもしれない。ゾロはそういう耐性はある方だと 思ってたから平気かと思ったけれど少しデリカシーが足りなかったかな。次にやるときは、みていないところでやろう。

 「おそろいだな」

 おれはそう言った。ゾロの左腕にはまったく同じ個所に傷があった。今は包帯が丁寧に巻かれているけれど。今日の昼間戦っていてついた傷だっ た。ゾロは実際すごく強いけれど、自分が怪我をすることにはまったくもって無頓着だ。だからしょっちゅう怪我をする。おれはゾロが怪我をすると悲しくなる から、何度も、せめて気をつけるようにはいっているのだけれど、ゾロがそれを聞き入れてくれることはなかった。

 「おそろいだな、じゃあねえだろ!!」

 ゾロが掴みかからん勢いでそう怒鳴る。夜中のラウンジなんだから静かにしないと駄目だぜと思うが、それは言わないでおいた。言ってもこうなったときのゾロは聞いてはくれないだろう。今度、昼間にでもさりげなく言っておこう。

 「とりあえずチョッパーんとこ行くぞ」

 そう言っておれはゾロにひょいと担がれた。腕だから歩くのには何の問題もないんだけどな。なんだかんだ言ってもゾロは優しい。ゾロはあったかい。



 

 次の日も戦闘があった。おれは怪我をしているからと船に残らされた。つまらない気分になったけど、ルフィとゾロがいれば問題はないだろう。今日は、同じく船に残るナミさんを守ることに全力を尽くせばいいだけだ。

 「ゾロ」

 おれはゾロが行く前に声をかけた。

 「怪我しないようにな」

 ゾロはなんだか、飲み込めないものでもあるみたいな変な顔をしていた。でもおれは、そんな表情でもゾロはかわいいなって思った。

  今日はゾロが怪我しないといいな。
 
 
  


 
 ゾロ、大好き。怪我したらおれに移せたらいいのになって思うくらい大好き。でもおれにそんなことはできねェからさ。おんなじ痛さがあったらいいじゃないかって気づいたんだ。いい考えだとおもうだろ?

  きょうはぞろが怪我しないといいな。



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