あいわなびうぃずゅー
えいえん、とかずっと、とかぜったい、とか、好きじゃあない。そうなんだろうなァ、と思った。そうは何となく分かっていながらも、おれはそういう言葉をついつい、でも半ば確信的に言ってしまうのだけれど。
怪我をあいつがするたびにそうだった。あいつの怪我は大概が馬鹿みたいに重いから、おれも大概馬鹿みたいに心配する。煙草の本数も舌打ちの回数も見る見
る増える。鼻やトナカイがあからさまにがたがた怖がるくらいに。まあ、並大抵のことじゃああの馬鹿は死にゃしないと分かっているから、無駄だとは知ってい
るんだが。
今日もあいつはそうだった。わき腹にざっくりと深い刀傷。大量出血。腹巻きに血の海とは間抜けな語感だが、まさにあんな感じだろうか。
そんなこんなで赤黒い包帯を巻いているくせに、普段と変わらずどっしりと胡坐をかいたふてぶてしいそいつの背後にいたら、思わず言葉が洩れた。
「おれさァ」
その言葉に反応して奴がゆっくりと振り返る。何も感情を見せるつもりがない透明な瞳でじっとこちらを見たあいつ。それでもそいつが言いたいことはよくよく分かっていた。思い通りになんてしてやる気はちょっとだってないのだけれど。
「お前のことずっ…」
とすきだよ。たとえおまえがしんじまっても。
だけどそんな言葉はぎゅっと腰に抱きついてきたあいつに遮られた。腹の辺りに顔を埋められ、旋毛が見える。普段あいつは抱きついてきたりなんかしない。天地がひっくり返ったって絶対に。
こんなときばっかりで、ずるい。
「なァ、傍にいろよ」
ずっと、とか言わないから。今だけで、いいから。
でもそんな言葉も出る前に、今度は引きおろされてあいつに唇を塞がれた。やっぱり、ずりィ。でも、おれも人のことは言えない。
こんなときしか抱き締めても、口付けてもくれないあいつに、わざわざ、《永遠》を言葉にしてとっておきの意地悪をする。
えいえんなんて誓わせても貰えない哀れなおれだから、これくらいしてもらったって罰は当たらないだろ?
雨あめ降れふれ
雨の日がいつの間にか好きになった。
件名:無題
from:やつ
今日もどうせ傘持っていってねェんだろ
7時半にいつもの場所まで行くから
駅から出たら案の定雨が降っていた。テレビ画面の中、天気予報士の姉ちゃんが言っていたから勿論おれは知っていたが、折り畳み傘を鞄の奥底に隠したまま歩き出す。少々雨足は強かったが、どうせ約束の場所までは大した距離じゃない。それに…
傘に隠れた人波に紛れ、水溜まりを避けながら30メートル。いつもの、待ち合わせスポットにもなれない哀れなモニュメント前が見えて来たと思ったら、見
慣れた金色頭がふいに振り向いた。何故かおれが来るのはいつも分かる、らしい。愛の力だなんて馬鹿なことを言っていた。馬鹿馬鹿しい。上に恥ずかしい。
紺色のやたら大きな傘を持ったそいつは、嬉しそうに笑って、手をぶんぶん振ってみせた。おれより5つも歳上の癖に、餓鬼っぽいやつ。
だが、おれだって負けず劣らず餓鬼のようだ。気が付いたら歩く速度が上がっている。小走りに駆けて行けば、さっと傘が傾けられた。くわえ煙草の口から言葉がもれた。
「傘、なんで持ってかねェんだよ」
「忘れちまうんだよっ」
呆れたように奴は言う。
「ふーん。いい加減持ち歩けよお前。風邪引くぞ」
「面倒臭ェし」
「ま、いいけど」
おれ、迎えに来るし。
一番最初に出会ったときに傘を忘れたからか、雨の日はいつもあいつが迎えにくる。一本だけ傘を持って。
だから、嫌いなはずの嘘をついてしまう。嫌いなはずの雨は、いつの間にか待ち遠しくなっていた。
地味に涙雨のあとの二人
きみはほんとはとってもやさしいの
「ほら、粥できたぞ」
そう言っておれはソファの上の、たまにごほえほっといった音を発する毛布の丸まりに声をかけた。いくら奴が頑丈だからといって流石に派手な太刀傷と風邪菌
のコンボには勝てなかったようだった。自己管理くらい自分でできないなんてなと奴はがらがらになった声で言ったが、風邪くらいひいてくれないと全くもって
人外になってしまうし、可愛げなるものが全くなくなってしまうのでいいのだと思う。まあ、おれはひいたこともないのだが、可愛げはあるのでよしとする。
そんなことを考えていると、毛布がもぞもぞと動いて、緑色の毬藻頭が顔を出した。額には我が船自慢のドクター特製の熱冷ましが貼ってあり、憐みを誘う。熱で少し赤らんだ頬、少焦点の外れた目と相まって心配になる。さっき見たときよりも、一層悪化してそうだった。
「おい、大丈夫かよ」
「大したことねェよ」
喉が痛むのかがらがらの小さな声でぴしゃりとそう返された。あからさまに大したことあるし、大丈夫じゃない。なのにこんなときですらちょっとの可愛げだってない。一応恋人なんだし少しくらい甘えてくれたっていいと思うのだが。
「じゃあ粥食え、ほら」
そう言って体を起こすのを手伝おうとしたら、ぴしゃりとすげなく力の入っていない熱い手ではらわれた。ではと、スプーンを口元にもっていったら睨まれた。
その上さっさと出ていけと言う。可愛げがない。本当に、全くもって。こんなときくらい、頼ってくれたっていいのに。おれに心配すらさせてくれないのかよ。
そんなこんなで強引に居座って、半分ほど食べさせたところで奴はスプーンを置いた。まあ、全部食えるとはおれも思っていなかったから仕方ない。やつは後で残りは食うからと言うが今片付けた方がいいだろう。そう思って、スプーンを持った。と、思ったらその手が掴まれた。
「おい、食うなよ」
「あァ?おれに食い物無駄にしろっていうのかよ」
おれの信念をよく分かっているだろうこいつがこんなことを言うなんて珍しかった。
「だからおれが後で食うって言ってんだろ」
「病人がそんなこと言ってんじゃねェよ。何なんだよ、一体」
そう言えば、やつはさも当然といったような感じで言った。
「てめェに移っちまうだろうが、風邪」
はい?
「そこに残り置いて、さっさと出ていけよ。移るだろうが」
そういって再び毛布の中に戻っていった。
おれの恋人は、ほんとはとってもやさしいようです。可愛げがないし、分かりにくいけれど。
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