日記でたまに書いてる黒猫が出てくるシリーズです。なごみ系・・・だと管理人は思っている


  責任が持てないなら餌をあげてはいけません


 腹ァ、空かしたヤツには食わせてやる。それがおれのポリシーだ。その後どうなるかなんて知ったこっちゃねェ。いつだってそう思ってる。

 が、流石に全く後悔しない訳でもねェんだな、これが。そう、足元に擦り寄ってくる猫を見て思った。



 ことの始まりは、鼻の長い変な友人が高校を急に休んだことにあった。らしくもなく季節ものの風邪をひいたそうだ。

 おれはコックを目指していて、その修行がてらにちょくちょく色んなヤツに弁当を作って食ってもらうのだが、その日はそいつに作る約束をしていた。つまり、おれ様のスペシャルな弁当は行き場を無くしたということだ。一言で言えば。

 腹ァ空かしたヤツには食わせてやるのもポリシーなら、食材を無駄にしないのもおれの中での大事な約束事だ。だからおれは誰かの為だった弁当を、一人寂しく放課後の公園で消化する羽目になってしまったのだった。



 その日の弁当は自家製パンを使った二種のサンドウィッチだった。茹で時間まで完璧な卵に、ジジィの味を盗み、自分なりにアレンジを加えたお手製マヨネー ズの卵サンド。もう一方はかりかりに焼いたベーコンに厚切りトマトとレタスのサンド。料理としては至極シンプルだけれど、それだけに奥が深い。

 それをブランコに腰掛けて食べながら、自分で自分の料理を批評していたら、そいつはやって来た。

 それは酷く痩せ細った黒猫だった。毛並みもぼろぼろで、黒なのだろうそれは薄汚れて濃い灰色になってしまっていた。いっちゃ悪いが、汚い。この一言に尽きる。
ただ、そいつの瞳だけはやたらめったら綺麗だった。少し距離を開けて、警戒しながらも餌をねだろうと、でも一切の媚びを含ませずにおれを真っ直ぐ見上げてくるその

 目は、日の光に透かした濃い桜の葉の色をしている。それは、おれの想い人とまさに同じ、珍しい色で思わずパンに手をかけた。

 卵はダメだしなァ。マヨネーズかかってるし、腹ァ下すかもしんねェ。パンだけなら大丈夫か?ま、いいか、野良だし。

 そう思い、何もかかっていないパンだけの部分を、小さくちぎって足元にそっと置いた。

 野良猫は、姿勢を低くしてじりじりとパンに近づいて来た。おれが少しでも動こうものなら、さっと瞬時に飛び退く。びびっているなんて可愛らしいもんじゃなく、威嚇に近い。警戒してんなァ。まァ、野良だし当然っちゃ、当然か。

 だけどそんな様子のそいつも恐る恐る一口パンを齧ったら、必死になってぱくつきはじめた。がつがつっていう擬音が全くもってよく似合う小さな口を懸命に 動かす様は、何となくおれを和やかな気分にさせる。あいつも、おれの料理を食うことがもしも、本当にないに等しいことだがもしもあるなら、こんな風に必死 になって、旨そうに食ってくれるんだろうか。そんなことを思ったら、遠くからしか見たことないほお袋を作った横顔が浮かんできて、顔に血が昇るのがわかっ た。一人でに勝手に真っ赤になっちゃ不審者もいいとこだ。だから、誰にだか知らないが言い訳でもするように黒猫に話しかけた。

「おー、良い食いっぷりだなァ、おい」

猫はそれに反応して、邪魔すんなとでも言うように一瞬こちらを見てから、パンの最後のひとかけらに食い付いた。可愛くねェな。そう思うも、そんなところま で何となくあいつを思い起こさせた。おれは再び顔が赤くならないように、自分の冷えた手を頬にあてた。 それを食べ終わると、そいつはすっと背筋を伸ばした。行っちまうのか現金なもんだなァと思ったら、少し距離をおいてころりと寝転んだ。おいおいどうしたん だよさっきまでの警戒心はっ、と思う間もなく、腹を見せてくてりと伸びをするとこちらをじいっと見た。まるで、にやりと笑うみたいに。

 う、うわあっ!!

 そう心の中で絶叫。猫が可愛いだなんて思ったのは初めてだった。



「いやー、それにしてもまァ、健康的になっちまって」
 
 それから、一月。何となくその猫が気に入っちまって通いつめたら、そいつは大層雰囲気が変わった。弱々しく細かった体は、適度な肉が付き、相変わらず小汚いものの、やたら綺麗なしゃんとした猫になっていた。はっきり言って、美人さんだ。雌猫じゃないのが惜しいくらいだ。

「んなー」

しかも、何でか知らないが懐かれた。前はいくら腹を見せようが手を出した瞬間に逃げられていたのに、今は自分から擦り寄って来るようになったのだ。そいつ の気が向けば、だが。触っても嫌がらないどころか、大抵は嬉しそうだし。いやぁ、真面目に可愛いらしい。餌付けしちまったのかもしれない。

「もうお前、うち来ちまうか?」

ジジィに怒られちまうな。でも、ほんっとにもう連れて帰っちまいてェ。そんな自分が若干残念で、後悔しないでもないけど。そんなことを考えながら言えば、猫は「なー」と一声鳴いて、足元に引っ付いた。





  名前を付けてあげなさい

「ぞ…」

ゾロ、なんちゃって。ってほんっとに何てこと言ってんだ。おれの馬鹿ばかっ。

 おれはこちらを円らな緑色の瞳で見つめてくる愛らしい黒猫を撫でながら、そう言葉になりそうなのを必死で堪えた。だってそうだろう?こんなの言葉に出してるようだったら恥ずかし過ぎる。

 野良だったこいつに懐かれて(懐かせて?)家に連れ帰り、綺麗に洗い終わって今まさに、名前を考えているところだった。が、全くしっくりくる名前がない。あいつっぽいというイメージがどうやら強すぎたみてェだ。

 にしても、おれ。いくら名前思いつかねェからって、そりゃあなくねェか。猫に片想いのやつの名前付けるなんて痛い。痛すぎるよ、おれ。思わず自分自身にツッコミ入れちまうくらいだ。あァ、顔熱くなってきやがったし。

「でも、好きなんだもんなァ」

そうぽつりと呟けば、猫は胡坐をかいたおれの膝にぴしりと爪をたてた。ジーンズを履いてるから大した痛手にはならないけれど。でも何となく《おれのこと考えろ》と怒られた気がして、ふわふわになった小さな頭をゆっくりと撫でてやる。

「や、お前のことも大好きよ。ちゃんと」

ぴしぺし。今度はそんな擬音がぴったりくるように尻尾で叩かれる。どうやらまだお怒りのようだった。そりゃそうか。

「悪かったって。えーと…」

おれは必死に頭をひねった。

「ミドリ?」

そっぽを向かれた。

「…チビ?」

反応がない。お気に召さないようだ。

「あー、じゃあ…クロっ」

そう言ったらぴくり、と耳が動いた。どうやら当たりみたいだ。

「おいでー、クーロっ」

その言葉と同時に、黒猫、もといクロは、おもいっきりおれのもとへと飛び込んで来た。




なぜクロかと言えば、ゾロと韻を踏んでいるからですよ。というかサンジ君はそれを狙ったんだと思われる。



 てきすと